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伊藤孝英
カイロプラクティックそのまんまサンシャイン院長
RMIT大学(ロイヤルメルボルン工科大学)日本校卒業。B.C.Sc(カイロプラクティック学士), B.App.Sc.(応用理学士)。従来の筋骨格系障害としての腰背部痛という観点から、生物社会心理的要因としての腰背部痛へとシフトチェンジしてマルチモデルで腰痛ケアをしています。鬱・不安などの気分障害で過度な薬物療法に疑問をお持ちの方もお気軽にお問い合わせください。
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筋骨格系の症状はもとより代替医療のセカンドオピニオンもお気軽に聞きにきてください。https://chirosonomanma.com

マイオセラピーによる上肢症状改善の一例

目次

第10回カイロプラクティック科学学会で報告

【要旨】

胸椎由来の上肢症状はT4シンドロームとして30年以上にわたって臨床概念として存在しておりカイロプラクティック、オステオパシー、理学療法から報告されている。胸椎由来の上肢症状に対してカイロプラクティック治療で改善がみられない患者に、マイオセラピーで上肢症状改善の好例を得た。マイオセラピー理論に基づく上肢症状への治療を3か月間に5回行い理論通りの結果を得たので報告する。

T4シンドローム患者の胸椎軟部組織への局所麻酔、抗炎症剤注入により症状緩和は報告されており胸椎由来の上肢症状の緩和に胸椎傍脊柱筋治療が有効の可能性がある。マイオセラピーによる胸椎多裂筋、回旋筋の伸張、弛緩が患者の上肢症状緩和に繋がった可能性がある。

キーワード:上肢症状,T4シンドローム,マイオセラピー,上部胸椎,傍脊柱筋

【はじめに】

胸椎由来の上肢症状はT4シンドロームの1症状として30年以上にわたり臨床概念として存在している。[1] [2] [3]しかしT4シンドロームの明確な徴候やメカニズムは不明である。 [2] [4] [5]

T4シンドロームは胸椎4番付近の関節マニピュレーションや関節モビリゼーション、代替案としての胸椎4番棘突起付近へのブピバカイン、メチルプレドニゾロン注射が提案されている。[1] [2] [3] [4]

【症例提示】

1.病歴

53歳男性 

  • 右腕の痺れが1年ほど前から続いている。
  • ふとした時に右肩から右示指、中指にかけて「もわっとした感じの痺れ」が出る。
  • 右肩から右手母指、示指、中指への繋がった痺れが出る

上肢症状が出やすい条件

  • 座位時間が30分以上続く時
  • 肘をデスクに置いたデスクワーク
  • 起床時に目薬を差す時

2.検査

頚椎伸展時におけるサービカルコンプレッションテスト(+)

3.結果

3-1)施術内容

1回目:カイロプラクティックによる脊柱アジャストメントを中心とした施術を行ったが変化なし。

2回目:1回目の施術に加えてマイオセラピーを胸椎傍脊柱筋に行った。

マイオセラピー中に右T2からT6レベル間の胸椎傍脊柱筋を刺激することで右上肢症を誘発した。上肢症状が出ている部位に沿ってマイオセラピーを行っても、遠位の指先への症状が再現された。さらに左T2からT10レベルの傍脊柱筋にマイオセラピーを行っても右上肢症状が再現された。

3回目:右T2からT6レベル間、左T3~T6レベル間の傍脊柱筋へのマイオセラピーで症状を誘発する。

4回目5回目:主訴は朝一番に目薬を差す動作でのみ現れると訴える。

左右、胸椎傍脊柱筋へのマイオセラピーでは症状は誘発されない。

上腕にマイオバイブで振動刺激を加える。(患者の主観としてコリ感が残っていると訴える為)3か月間で計6回の来院で症状消失。

3-2)エクササイズによる補助

3か月の間に行ってもらうよう指示を出したエクササイズは4種類であった。1回目から日常的に行うエクササイズを伝えたが3回目までは出来ていない。3~6回目の間に患者は指導したエクササイズを積極的に行った。

1回目:四つ這いでの全身呼吸コントロールのエクササイズ

2回目:クッションを使った背臥位での中呼吸エクササイズ(魚のポーズ)

3回目:頚部のマッケンジー体操

4回目:壁を使った胸椎の伸展エクササイズ

【考察】

4-1)胸椎傍脊柱筋治療が上肢症状改善に有効である根拠

今回の症例では上肢症状を有する患者にマイオセラピーが上肢症状を改善、消失させる結果になった。胸椎傍脊柱筋治療が上肢症状患者に有効であるという根拠を本稿では3つ紹介する。

1985年の山岸らによる50例を対象とした臨床研究において、椎間関節、その周囲構造へのブロック注射で上肢症状が消えることが確認されている。 [5]

辻井らの研究によると、多裂筋のような傍脊柱深層筋への針刺激で上肢に関連痛が発生することが確認されていることから上肢症状は傍脊柱筋、特に深部の筋肉からの関連痛であるものと推察できる。 [6]また2006年にGary A. Mellickらによる胸椎4番レベルの傍脊柱筋への0.5%ブピバカインとメチルプレドニゾロンの混合液の筋肉注射によって、患者2名の両腕感覚異常が緩和することが症例報告されている。 [2]

マイオセラピーはマイオバイブとよばれる特殊な振動器具により振動刺激(低周波数20Hz、振幅9mm)を傍脊柱筋に与える治療法である。 [7]  [8]脊柱及びその近傍の血液循環不全を解消する為に後肢支配筋群、特に多裂筋や回旋筋などの深層筋群を弛緩、伸張させることを主目的としている。 [8]上肢症状の原因が胸椎脊柱深層筋であった場合、上肢症状を改善させる可能性がある。マイオセラピー理論においては四肢症状も後肢支配筋を治療することで治療範囲を狭くし治療時間の短縮につながると仮定しており、今回そのような結果を得るこができた。 [7] [8]

4-2)指先へ関連痛の連鎖の可能性

右上肢へもマイオセラピーを行っている理由はサテライトトリガーポイントがあった可能性があるからである。根拠は、辻井らの研究により関連痛領域において関連痛が生じている時、その関連痛領域においても筋活動が発現していることが筋電図において確認されている。 [6]

4-3)反対側の起立筋群刺激でも主訴が現れる理由は不明だが中枢神経系関与か

左脊柱深層筋でも誘発された右上肢症状は、中枢神経因性の痛みである可能性がある。

根拠は2003年Rajanらによって発表された動物実験になる。ラットの深部組織に3%のカラギーナン注射による痛みの誘発は、急性期から慢性期になるのと同時に反対側へも痛覚過敏を引き起こすことが確認されている。[8]右側の傍脊柱筋が上肢症状の原因であった場合、発症から1年が経過しており中枢性感で反対側の起立筋にも影響を与えていた可能性がある。中枢性感作は大脳の機能や形態の変化も関係することが言われており理由は不明である。 [6] [10]中枢性感作を引き起こし、持続させるリスクについては遺伝的、環境的な事も含め、より多くの事を学ぶ必要がある。 [11]

4-4)運動療法に効果があった可能性

本症例においてエクササイズを積極的に行ってもらえた4回目以降に患者の主観的訴えが大きく減っていることからエクササイズによる運動機能の向上がさらに症状を改善させた可能性がある。 [1]治療時間の中の運動学習に費やす時間を増やすことで、より早期に回復が見込まれた可能性がある。 [12]

L. L. DeFranca GG, “The T4 syndrome.,” J Manipulative Physiol Ther., 1995 Jan;18.
M. L. Mellick GA, “Clinical presentation, quantitative sensory testing, and therapy of 2 patients with fourth thoracic syndrome.,” J Manipulative Physiol Ther, 2006.
A. G. S. Jenny LouiseConroy, The T4 syndrome, Manual Therapy, 2005, pp. 292-296.
O. P. T. Patricia Miyuki Hirai, “T4 syndrome – A distinct theoretical concept or elusive clinical entity? A case report.,” J Body Mov Ther., no. 20, pp. 722-727, 2016.
山岸元,有川功,生方彰 et al., “肩及び上肢の疼痛とシビレ感の徴候の変化,” 日本理学療法学会誌, 第 巻第20回第12巻, 第 特別号, p. 28, 1985.
辻井洋一郎,小林紘二,河上敬介, “頚・胸椎部の筋から生じる頭、体幹及び上肢への関連痛,” 日本理学療法士学会, 1991.
竹井 仁,黒澤和生, 系統別・治療手技の展開, 3 編, 協同医書出版社, 2014, pp. 374-396.
辻井洋一郎, “マイオセラピー,” 理学療法学, 第 巻34, 第 8, pp. 381-383, 2007.
S. A. A. Rajan Radhakrishnan, “Unilateral carrageenan injection into muscle or joint induces chronic bilateral hyperalgesia in rats,” Pain, 第 巻104, 第 3, pp. 567-577, 2003.
H. Vernon, “What is different about spinal pain?,” Chiropr Man Therap, 2012.
C. J. Woolf, “Central sensitization: Implications for the diagnosis and treatment of pain,” Pain, 2010.
A. e. a. R.Cano, “Theories and control models and motor learning:Clinical applications in neurorehabilitation,” Neurologia, vol. Vol30, no. issue1, pp. 32-41, 2015.
参考文献
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