腰痛神話が崩壊していった1990年代
多くの腰痛の原因となる考え方が仮説、そして仮説は否定
日本で報じられることは少ないですが、前世紀まで真実として語られてきたことが全くの嘘だったとしたらどうおもいますか?
腰痛の分野では、あまりに多くの回復しない腰痛患者(慢性腰痛患者)が世界中に増え続けていました。これは19世紀まで腰痛の原因と考えられていた、骨の変形、椎間板の変形は腰痛の原因ではないことが証明されています。
そして今なお増え続けていると言われています。
2010年に発表の研究結果
体系的レビューとメタ分析の結果、慢性腰痛は年齢・性別・体重・教育レベルの影響をまったく受けておらず、肉体労働・仕事の満足度・病欠などの影響も弱い。
(Hanley EN et at al,2010 May)
慢性腰痛の最も重要なリスクファクターは、心理学的・機能的領域と考えられる諸因子(イエローフラッグ)。
実は無職の人に一番多い腰痛
次の表をご覧ください。
1979年に整形外科MOOKに掲載されたデータです。腰に負担がかかると腰痛になると思っている方が多いですが、実際は無職の方が割合的には腰痛になることが一番多いのです。
腰に負担が掛かっていないのに何故でしょうね?
レントゲン撮影、MRIなどで解かる構造的な欠損は腰痛の原因ではありません。実際には社会的にストレスのかかりやすい年代に腰痛は多いのです。
(山口義臣&山本三希雄:整形外科MooK,1978~2005)
最新の研究でも、腰痛から回復する要素として大切なものが4つがあげられています
- Physical 肉体的要素
- Social 社会的な要素
- Mental 心理的な要素
- Spiritual 精神的な要素
1.の肉体的な要素も仙腸関節が固まってたり、筋硬結、もっと大きな羊羹のような腰の筋肉の塊があるとそれが原因のこともあります。
ここで説明が必要なのは2. と 4.でしょうか。
これらは生物心理社会的要因と言います。
人間は社会的な生き物
2.多くの方は腰痛は肉体的な問題と考えているでしょうが、社会的な要素も凄く大きく関わっていることが大規模な疫学調査で分かってきたことです。
鬱病にも言えることですが人間は社会的に役立っているという充足感がないと発症するリスクが上がるという事です。
無職の方が人口に対する腰痛のパーセンテージが1番高いことですが、これは雇用問題、少子化問題、将来への不安など国レベルでの社会的要素の改善が、腰痛罹患者を減らしていくことと関わっている可能性が高いと私は思います。
いま日本で腰痛が多いのも頷けますよね。
4.のスピリチュアルは日本では、「霊」や「あの世の世界」など怪しげなものとして考えられがちですが、ここで言うスピリチュアルは 「死生観」 「宗教観」 などその人の人生観の根幹をなすような「ものの考え方」のようなものです。
これがあるかないかで、腰痛からの回復力が違うということです。
このことに関してはベトナム戦争や湾岸戦争の米軍帰還兵が、宗教的な生き方をしている方がそうでない人達よりも回復力が早かったという研究から解かってきたことです。
骨の変形を指摘された方 ご安心を
変形などの加齢が原因で腰痛になるならこのような結果にならない
レントゲン検査でみえる腰椎体の変形は、腰痛の原因ではありません。腰椎の変形が腰痛の原因でないことは半世紀以上も前から証明されてきた。
(J Am Med Assoc. 1953 Aug 22)
最も古い対照試験は1953年に実施された腰痛患者100名と健常者100名の腰部X線写真を比較したもので、両群間の変形性脊椎症の検出率に差はなかった。腰痛が無い人にも腰の骨の変形が普通にあります。
世界各国の腰痛診療ガイドラインが腰下肢痛患者に対する画像検査を自粛するよう勧告している理由はここにあります
腰痛患者200名と健常者200名のX線写真を比較した結果、脊椎辷り症、腰仙移行椎、潜在性二分脊椎、椎間狭小、変形性脊椎症、脊柱側彎症、前彎過剰、前彎減少、骨粗鬆症、シュモール結節、圧迫骨折、骨盤傾斜の検出率に差はない
(FULLENLOVE TM, WILLIAMS AJ.1957 Apr)
オーストラリアでは本気の腰痛キャンペーン
著名人にメディアでゴールデンタイムに語ってもらう形をとったオーストラリア。どんな取り組みなのでしょうか?
医療費の削減は先進国にとってどこも悩みの種です。不思議の国日本は2012年末に日本腰痛学会と整形外科学会が診療指針を変更したそうですが、これが臨床現場に活かされる日は当分先だそうです。
オーストラリアでは政府主導でメディアを使って1997年に大々的に腰痛対策を行っています。芸能人やスポーツ選手にゴールデンタイムのCMで腰痛の新概念について語ってもらうというものであったらしいです。
結果は腰痛部門だけでも医療費を大幅に削減できたそうです。たしかビクトリア州だけで500万豪ドル削減だと記憶しています。
日本では2019年現在、未だにレントゲンの画像にビビっている患者さんが可哀そうになる時もあります。
善悪両方でありますが、映像、画像の力は大きいようです。
■「腰痛に屈するな」キャンペーンでは『The Back Book』から抜粋した、
①酷い腰痛でも長期間の安静はとらない
②腰痛でも普段どおりの活動的な生活を継続し
③腰痛で仕事を休まないようにという明確なアドバイスが強調された。
キャンペーンの主要なメッセージ
・ゴールデンアワーのテレビコマーシャル(腰痛には日常生活が一番など日本でいうと公共広告機構のようなCM)
・新聞や雑誌の広告(腰痛は安心してください、2.3日が痛みのピークです等)
・屋外看板広告
・ポスター
・腰痛セミナー
・職場訪問で伝えられ、さらに『The Back Book』を16言語に翻訳して広く配布し、ビクトリア州内のすべての医師にエビデンスに基づく腰痛診療ガイドラインを提供する
という徹底したものでした。これらのキャンペーンは一流スポーツ選手やセレブなど著名人を起用して腰痛は怖くなく自然寛解するものと訴え続けたようです。
何事も中道をいく日本の姿勢も絶対悪ではありませんが、医療関係者の為の中道は患者さんにとっては少し迷惑かもしれませんし、ひいては医療費の爆増にも繋がっていると思われます。
骨盤の歪みも腰痛の原因ではない
骨盤の歪みが腰痛になる という情報はいっぱいありますが、実はソースがありません。腰痛患者をひっぱってきて骨盤を調べると歪んでいる人がいる。
じゃあ腰痛じゃない人を呼んできて調べると、同じように歪みがある。厳密には非対称性を見ています。
下記リンクの論文のダイジェストでは、測定方法は解からないけれども、このような論文があるということです。
イメージ的には歪み と言っちゃったほうが伝わりやすいのかもしれませんが、やっぱり良くないね、そういう表現は。
骨盤の非対称性は腰痛と関連していない
■腰痛患者144名と健常者138名を対象に骨盤の歪みを厳密に測定して腰痛との関連を調べた結果、どのような臨床的意義においても骨盤の非対称性と腰痛は関連していないことが判明。骨盤の歪みが腰痛の原因というのは迷信に過ぎない。
受け入れがたい医療関係者も多いでしょうが、この結果に異を唱えたければ同じ研究をやってみることです。自然界に左右対称は存在しません。ある信念に固執して事実から目をそらすことを確証バイアスといいます。
ちなみにカイロプラクターは「動き」を診ます。
骨盤の動きの機能を回復させるのです。
カイロプラクターの研究でも 脚の長さや骨盤の高さというのはアジャストしても変わらないという報告があります。しかし骨盤の動き、機能性には変化があるということは付け加えておきます。